伊東さんが本を書いた動機は明快で、東日本大震災を機に建築を根底から見直さねばならないと感じたからでしょう。重要だと思う伊東の記述は「いわば目に見えない資本を視覚化する役割を担うのが建築家であって、彼らはその蓄積される場所を求めて移動を繰り返す。それが現代建築家なのです」。つまり、篠原流に言うと現代建築家は資本家の「下僕」だと言っているのでしょう。次は余りに正直で、笑ってしまった処。「つまり私は、歌(小生注、演歌)を通じてなら地域の人々とコミュニケーション可能なのに、建築を通じては必ずしもうまくコミュニケーションできていなかったのである」という下りである。聴いたことはないが、伊東さんは八代亜紀をはじめとする演歌は相当に上手いのだそうだ。そうだろうなあ、伊東さんの建築は地方の爺さん婆さんの心には響かないだろうと思う。