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NO.62

篠原修の「面白かった本」その8

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2022/11/04 18:14

#篠原修
#橋本忍#黒澤明#貴田庄#小津安二郎#新田匡央#山田洋次
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東京大学名誉教授・篠原修(景観工学・設計計画思想史)が手に取った本の内容を、本人の語り口で紹介する書棚のぞき見企画。
GSデザイン会議のメールニュースで配信された約200本に及ぶ記事から編集部でピックアップして掲載します。

今回は第八回を掲載。
今回は、橋本忍『複眼の映像―私と黒澤明』、貴田庄『小津安二郎と「東京物語」』 、新田匡央『山田洋次ーなぜ家族を描き続けるのか』 の三冊。
一流の映画人から学ぶ、ものづくりの精神のすゝめ。

2013年12月20日 篠原修

大谷幸夫さんの逝去から始まった今年は、6 月に加藤源さんを送って、年末の近自然工法の福留脩文さん、西健の親父さんの逝去で幕を閉じようとしています。以下は小生の感慨。霜の朝 逝く人多き 歳の暮。今年最後の今回は映画でいく事にしましょう。日本映画の巨匠と言えば、様々な名前が挙がるでしょうが、まあ黒澤明、小津安二郎を挙げるのが穏当な処でしょう。この両名に後述の理由で、今回は山田洋次を加える事にします。この三人の映画についての本は多数に登りますが、読者の便を考えて一人一冊限定でいきましょうか。

『複眼の映像―私と黒澤明』 橋本忍
まづ黒澤明。一緒に脚本を書いていた橋本忍の「複眼の映像」が秀逸でした。2 ヶ月も旅館に泊まり込みで(これは長短はともかく他の監督も同じ)生活を共にし、朝10 時から午後5 時まで脚本の執筆。その後酒宴。黒澤明はウイスキー。脚本は同じ場面を競争で書き、良いものを取る。こんな辛抱ができますか。大変な忍耐力とエネルギーです。僕はできそうも無い。家に居て原稿を書いている時でも、すぐに外の散歩に逃げたくなる。この本を読んだ時、我々は「まちづくり」でこんなに集中して考えているだろうかと反省させられました。

複眼の映像_アートボード 1.jpg

橋本忍『複眼の映像―私と黒澤明』 文春文庫, 2006


『小津安二郎と「東京物語」』 貴田庄
次に小津安二郎。最近出た貴田庄 の「小津安二郎と『東京物語』」がわかりやすくて良かった。黒澤明の「七人の侍」とならんで名作とされる「東京物語」を題材に、小津安二郎の行動をシナリオづくりからロケハン、最後の編集作業に至るまで追ったものです。小津安二郎の映画の作り方がよくわかります。

小津安二郎と「東京物語」_アートボード 1.jpg

貴田庄『小津安二郎と「東京物語」』ちくま文庫, 2013


『山田洋次ーなぜ家族を描き続けるのか』 新田匡央
最後に山田洋次。山田の「弟」制作に密着取材した新田匡央の「山田洋次ーなぜ家族を描き続けるのか」。これも山田組の映画の作り方がよくわかる本になっています。

山田洋次ーなぜ家族を描き続けるのか_アートボード 1.jpg

新田匡央『山田洋次ーなぜ家族を描き続けるのか』 ダイヤモンド社, 2010


以上の3 冊を読めば、いい映画とは時間と手間をかけて、気心の知れた優秀な仲間でやって始めて出来上がるのだという事が理解できます。近頃はいい写真(映画)出来ない訳だ、ついでにいい町も。
12 月22 日、山田洋次の「小さな家族」を見に日向に行って来ます。市役所の和田さんが以前からやっている「山田会」の封切り前の試写会なのです。「弟」もこの試写会でみたのです。
ではまた来年。



<次編:篠原修の「面白かった本」その9>

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