東京大学名誉教授・篠原修(景観工学・設計計画思想史)が手に取った本の内容を、本人の語り口で紹介する書棚のぞき見企画。
GSデザイン会議のメールニュースで配信された約200本に及ぶ記事から編集部でピックアップして掲載します。
今回は第六回を掲載。
山口果林の著書『安部公房とわたし』。
文学者の生き様を裏側から読む教養のすゝめ。
2013年11月28日 篠原修
月に2回はと約束したのに前回が10月の始め。
出張ばかりでというのは言い訳になりませんね。
今回の本は、面白いというよりショックを受けた本。
多少週刊誌的になりますが容赦ください。
『安部公房とわたし』山口果林
帯に「文壇騒然」とあります。
それはそうでしょう、果林が安部公房の愛人だったというのは誰も、ごく親密な人以外誰も知らなかったから。
勿論、果林はある程度有名な俳優だったので僕も知ってはいましたが、果林の本だから買った訳ではない。そんな趣味はありません。
安部公房との付き合いがどんなものだったのか、我々が知らない安部公房の側面がどう描かれているのかに興味があったからです。
安部公房は漱石の次に尊敬している作家で、本当はノーベル文学賞をもらって然るべき作家でした。
大江健三郎は勿論のこと、いま話題になっている「ノルウェーの森」の村上春樹などは足下にも及ばない。「第四間氷期」にでてくる生き延びる為の魚類への人間改造の話は知らなくとも、「箱男」や「砂の女」なら聞いたことはあるとおもいます。
読んでいる内に段々嫌な気分になってくる事を避けられませんでした。
聞きたくもない果林とその家族の話が余分だったせいもあるのでしょう。
なんですっきりと離婚できなかったのかという思いもあるのだと思います。
後味は悪いのですが、読んで良かったとは思います。こういう安部公房もあったのだという意味で。
僕の机の上に置いておくので、読みたい人はどうぞ。
山口果林『安部公房とわたし』講談社, 2013