伊藤遼太さん(Ito Architecutre Associates)は、本メディア『土景』のディレクターも務める若手建築家である。その活動は、建築設計やwebディレクションの他にも教育研究活動、写真・動画の撮影編集、仮想現実空間の制作など多岐に渡って展開している。
今回のレビューでは、彼がずっと魅了され、考え続けてきたという”空間と時間の関係”について、その思考と実践を通じて語ってもらった。
「建築じゃないかもしれない。今っぽくもないし、主流でもない。未だ答えのないことを、こうして話して良いものか不安もある。」
そう前置きをしてから始まった講演録。
――空間の背後に潜む、時間という哲学的領域へ口火を切る。
これらのことを踏まえて、二つの実作についてだけ、少しお話ししますね。
一つ目が、『美術品地下倉庫』というもので、これはアーティスト夫婦のためのギャラリー兼倉庫です。
通常のギャラリーは作品が次々に替えられていくので、白い壁で、抽象的な空間で、展示作品だけが際立つようにするんですけど、それは言い換えれば、何も蓄積しない空間なんです。前の遺物や痕跡が残っていては駄目だし、中身が回転することを前提にしているので、時間はただ過ぎ去っていくものでしかないわけです。
だけど、ここはアーティスト夫妻のための私設ギャラリーだったので、2人の活動が蓄積する場所として考えました。特に、ここは地下室なので、外界から切り離されていて、日常的な時間が流れていない。なので、階段を下りてこの部屋に入ったときに、別の時間の流れが存在しているかのような体験をつくろうと意図しています。
タイルと音楽のための美術品地下倉庫
クライアント夫婦はそれぞれ音楽家とタイルの陶芸家で、打ち合わせの初期段階から、奥さんのタイルを用いて、旦那さんが音楽のリサイタルもできる空間をつくって欲しいと依頼されたわけです。
とまれ、いろいろ問題はありまして、タイルを壁に張りつけて固定するのか、また音響的にエコーが凄まじいことになるのでそれはどうするのか、など諸々のことを考えなければいけませんでした。
なので、両側の棚がタイルで埋め尽くされるんですけど、それらに対して工夫をしてあります。断面図を見てもらうと、タイルはすべて斜めに、ジグザグになるように壁にかけられるんですね。
短手断面図
両側の壁にタイルが配される。タイルは一枚一枚がレリーフとして独立し、絵画と同様に一つの美術作品として扱われている。一方で、壁面を覆いつくして空間全体を構成する。すなわち、タイルを図と地の二重化した存在として考えた。
この棚の高さはタイルの寸法モジュールから導かれていて、…
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