土景 -GROUND VIEW-

大地の見かたを自分のものに、土景。

HOME

>

INTERVIEW

NO.35

伊藤遼太 vol.7 『作為なき作為をめざして』

INTERVIEW

2022/04/17 00:10

#伊藤遼太

-

前編へ

本メディア『土景』にてディレクターを務める建築家、伊藤遼太さん。前編のレビューでは、その思考と実践から、時間と空間の関係をテーマに話してもらった。今回のインタビューでは、講演会場からの質問をもとに、創作における言語化の重要性と、その実践における困難についてが議論された。
「これが良い、面白いってことを見立てる人が、どの分野でもいるんです。たとえば、松尾芭蕉の詩も、あれは芭蕉が詠んだから、僕たちはそういう自然観を言語化できたんだなと思うんです。」
先人の知恵を借り、自身を再構築し、未踏の領域に踏み込むこと。その温故知新の創作の姿勢に迫る。

崎谷 そんなこんなで、けっこう時間が来てますね。僕からもいろいろ聞きたいんですけど、どっから話そうかな。最後のFRPのドームのやつなんかは、『ドラゴンボール』の精神と時の部屋みたいな感じだよね(笑)。

伊藤 まさにですね。ははは(笑)。

代官山のトレーニングジム

FRP製のドームを改修したトレーニングジム

崎谷 みんな、知ってんのかな? 『ドラゴンボール』の。


伊藤 あれはコンセプトからして、すごい近いんですよ。そうしたら、かたちも(笑)。


崎谷 そうだろうね。あ、精神と時の部屋じゃんって思って(笑)。


伊藤 (笑)。


崎谷 あとは、ギャラリーの方で、建物の時間に合わせて金物を錆びさせるっていうところも面白いと思った。


画像47.jpg

美術品地下倉庫

錆びのスタディ

鉄(赤錆)と銅(緑青)を同時に定着させる実験

崎谷 あれで思い出したのは、『noma』っていう料理のレストランがあってさ。

伊藤 デンマークの?


崎谷 そう。デンマークにある『noma』。そのレストランの客席だったか、キッチンだったかに、カビの絵を飾ってるんですよ。カビ菌の絵。


伊藤 面白いですね。


崎谷 うん。錆にしても、カビにしても、物質の時間変化が表層化されたもの、視覚化されたものですよね。そういう話を聞いて、皆がどう思ったか分かんないけど、錆びさせることや、カビていることに対して、ネガティブな印象というか、もしくは、やや誇張し過ぎというか、そういうところもあるかもしれないと思うんだけど、僕は別にそんなことを思わなかったっていう話で。


伊藤 デコラティブ(=decorative)だったりもしますからね。


崎谷 デコラティブ、そうですね。


伊藤 そう。でも、たとえば、そういう時間を表現する素材みたいなものがあるとして、それが否定的に映るか、よく見えるのか。デリケートな問題だなと思うんですよね。同じ現象に対して。

奥多摩のロープウェイの廃墟

奥多摩ロープウェーの廃墟(2020/4/19 撮影)

崎谷 ほう。


伊藤 つまり、侘び寂びがあればいいし、とか。


崎谷 それこそ見立てですよね。


伊藤 そう、見立てなのかなと。放置されて汚いと思うのか、枯れてる、侘びてるから良いと思うのか。それはデリケートな問題ですよ。そして、単一の事象で決まるものでなくて、周りとの関係性でもあって。


崎谷 ああ。たとえば、利休がそこら辺に落ちてる枝を拾ってきて、茶室の床の間にぽんって飾って、竜です、と言ったとか、そういうことに近い。そして、そういうことは起こり得るという話ですよね。空間は、まさにそうやってもたらされる。というか、空間と時間と物質との関係性によって導かれる。それは語られるべきだし、語ってよいですよね。そこには創造も発見も、すごくミックスされているんだろうなという気がするんです。だんだん時間がなくなってきて、あれというか…いろいろ話をしたいんですけど(笑)。最後になにかありますか?


伊藤 そうですね。うーん…そうですね。でも、時間を空間に宿らせるって、正直けっこう難しいなと思っています。どうしても作為的になってしまいがちで…そういう意味では、茶室みたいな考え方――「作為なき作為」という言葉は参考になる。物質がそれぞれ持ってるバイオリズムがあって、その力を借りる、なるべくそれを調和させる。それぞれの物質の語りかけてくる時間が、その空間における用途とも重なって感得されるような在り方というんでしょうか。だから、自然にその世界に入り込んでいける。建築的な所作としては、そういう誘導がすごく大事だと思っています。だから、かえって、あんまり主題化し過ぎると危ないですよね。あくまで、本当に流れてる物質の時間を借りるぐらいの感じでやると良いのかなとか考えています。


崎谷 なるほどね。あと、『土景』的には、大地の話とか風景の話も掘り下げていきたいところなんです。これは極論だけども、土木が扱っている時間はビオス――有限で、非常にバイオロジカルな時間だと思うんですよ。建築ももちろん、そういうバイオロジカルな時間を扱っているんだけど、一方でゾエ――非常に無限の神がかった時間も扱いうるというか、扱おうとしてるというか。


伊藤 それは、そうかもしれません。


崎谷 そういう印象があったので。伊藤さんの三つの時間定義でいうと、どっちだろう、純粋持続的時間がビオスで、神話的時間がゾエみたいな感じかな。


伊藤 歴史的時間もゾエかもしれないですね。抽象的で空間化されている。


崎谷 そうですね、でも、歴史っていうのは面白くて、そういう風にも捉えられるし、けど歴史は巡る、同じことを繰り返してる、みたいなことも言える。もしかしたら、そのどちらも含んだものを歴史と僕らは呼んでるのかもしれない。とはいえ、風景は一つで、それがない交ぜになっていて…そうすると、何がそれを成り立たせてるのか? 風景っていうものの概念が、誰のどういう考え方によって導かれてるのかっていうところが面白いなと。


伊藤 そうですねえ。


崎谷 それを『土景』の中で取り上げつつ、建築とか土木とかいろんな分野――ものをつくる分野だけじゃなくて、哲学とか美術とか社会学とか人文地理学とか、いろんなところから語られていくと面白いなと思うんですよ。なんてことを言ってたら、どんどん時間が過ぎちゃった(笑)。僕はいろいろコメントしたいことは、ぎゅっとコメントしたんですけど。どうでしょう。今日のところは、こんな感じで大丈夫ですか。最後、この会をまとめてくれていた方にもお聞きしようかな。


会場
 ありがとうございました。そうですね、私もスカルパの建築などは好きで、とくに時間に関連していうと、壁面の溝に水がそこを通るようにデザインしてて、雨が降ったときに、それが黒いパターンを生むというディテールを以前に見たことがあって、それはすごい、建築家の仕事だなと思ったことがあります。そういう時間の中で別の魅力を発揮するような建築っていうのは、自分も考えたいと思っています。お話、ありがとうございました。


崎谷 いいですね。都市や土木も視野にやっていくと良いですよっていう話も僕から言いたいです。


伊藤 小さなスケールから都市・風景まで、どう繋げていけるかというのは興味深いトピックスです。


崎谷 ご清聴ありがとうございました。伊藤さん。ありがとね。


伊藤 こちらこそ、ありがとうございました。



(終)

前編へ
投稿されたコメントはありません。
TOP 掲示板 ABOUT 会員登録 運営会社 マイページ

土景運営事務局

〒113-0033 文京区本郷2丁目35-10 本郷瀬川ビル 1F

info.tsuchikei@kusukichi.jp

© 2022 Kusukichi