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INTERVIEW

NO.53

内藤廣 vol.2『文化はのりたまじゃない』

INTERVIEW

2022/07/28 00:04

#内藤廣
#アルヴァ・アアルト#イヴァン・イリイチ
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日本建築学会賞など数多くの賞を受賞し、日本を代表する建築家である内藤廣さん。近年は、大都市東京の真ん中に明確な用途をもたない異質な施設「紀尾井清堂」が建ち、東日本大震災の復興現場では「高田松原津波復興祈念公園の国営追悼・祈念施設」が完成した。また、東京都の景観審議会の委員を長年務め、現在進行中の渋谷駅周辺の再開発プロジェクトでもデザイン会議の座長などを務める。
今回のインタビューでは「風景とは、景観とは何か。そして我々には何ができるのか」という問いを起点に、いま内藤さんが建築に込める想いを尋ね、また幼少期の記憶や感動した原体験、さまざまな人との出逢いと別れ、これからのことなど、内藤さん自身の過去・現在・未来についても語ってもらった。
「それは”生きる”っていうことです。」
――生と死の狭間で、つくり続け、何を残し、どこに還るのか。
聞き手は、東大景観研究室時代の教え子でもある土景編集長・崎谷浩一郎。内藤廣の個人史にも迫る珠玉のインタビューを公開。

崎谷 ところで、今日は、内藤さんの最新の言葉を聞きたくてですね。今の内藤さんは何を考えてるのか。もうこの場はこの瞬間だけなので、現時点における内藤さんの関心事を聞きたいなと。


内藤
 うん。


崎谷 それで、昨年に竣工したばかりの紀尾井清堂にも、先日ちょっと行って見学させて頂いたのですが。


内藤
 ありがとうございます。


紀尾井清堂外観.jpg

紀尾井清堂の外観
提供:内藤廣建築設計事務所

紀尾井清堂_吹き抜け.jpg

紀尾井清堂の内観(2階吹き抜け)
提供:内藤廣建築設計事務所

崎谷 先ほども景観と資本主義の話がありましたが、紀尾井清堂ではまさに資本主義的なものとは真逆のことを実現していますよね。まずは、その辺りの話を切り口にしてお聞きしたいと思って。


内藤
 今日は崎谷さんと適当に話すということだったんだけど (笑)。でも、紀尾井清堂をやってる最中に、片一方で、新しい巨大開発とかデベロッパーの描いた絵とかを見せられているわけ。景観審の委員をやってると、東京の巨大開発に関するものは僕の机の前を一回は通るので。そうするともう本当にしょうもないって気持ちになってくるわけです。資本主義社会のルールの中で、皆それぞれやむなくやってるんだけど、その結果現れてくるプロジェクトを山のように見ていると本当に気が重くなる。そんな中で、彼らが絶対に実現できないことを実現したいと思ったことは確かなんです。それはブラックホールみたいなもんで、真逆の価値を提示してみるとどうだろうと。要するに、言葉で言ってるだけじゃ駄目で、リアルに実物として現れるとみんなが直感的に分かるっていうこともあり得るかもしれない。せっかくああいう機会を与えてもらったので、一縷の望みを託してそういう場所をつくりたいと思ったんです。それでああいう、抽象的な15mキューブ(立方体)のコンクリートの塊を空中に浮かすっていうことをやったわけです。


崎谷 ええ。


内藤
 それで、ちょうどそれが出来た頃に、一本松の根に出会った。陸前高田の倉庫の中に、保管されていたのを見てすごいなと思った。そこにある生命力だとか力だとかっていうのは、今の東京で動いている巨大開発とか、あるいは建築家たちが建築雑誌に発表しているあの感じとか、それから若いやつらが考えているようなことと真逆のことが、あの根の力みたいなものに表れてるなと思って。それは“生きる”っていうことです。じゃあ、その二つを重ね合わせたらどうなんだろうと思い立って、なんとかあそこに持ってきてみんなに見せたいと思った。当然かなり大変だったんだけど、やってみたら何となくあの空間が作り出しているものととてもうまくシンクロしてるので、それはまあ、うまくいったかなと。

奇跡の一本松の根展.JPG

紀尾井清堂の1階に座する”奇跡の一本松の根"
提供:内藤廣建築設計事務所

展示は要申し込みで、2023年2月9日までの予定。

https://www.rinri-jpn.or.jp/news/16815/

奇跡の一本松_陸高倉庫仮組.jpg

陸前高田の倉庫に保管されていた”奇跡の一本松の根”を仮組みした様子
提供:内藤廣建築設計事務所


崎谷 では、まだ中身がないときに、まずは箱を設計していたということなんですね。


内藤
 一本松の根に会ったのは、ほぼ竣工したぐらいかな。あのときは、別になんの企画も決まってないし、使い方も決まってなかった。しばらくは建物を開放して、誰でも見れるようにしようか、なんて話もしていた。うちのスタッフが木の根を平面に入れてみたらぴったりはまることがわかった。もう、これはしょうがない。運命だね。


崎谷 確かに、スケール感がちょうど良かったですね。はまらないことも、ありえますもんね。


内藤
 ぴったしはまるんで。これはやらざるを得ないなと思って。そんな感じですね。


崎谷 関心事っていうと、やっぱり“生きる”っていうことですか?


内藤
 そうだね。だけど、それは少し抽象的過ぎるから、もっと具体的な、分かりやすい話で言うと、フィンランドのことですね。


崎谷 フィンランド?


内藤
 ただ、それも多分話が飛躍してると思うので、さらに直接的にはウクライナの話です。プーチンが言ってるロシア側の言い分は、まあ君たちの住んでいるところもロシアだよね、みたいな話だよね。本当を言うと、もっと辿ればスキタイとかそういう過去の歴史に戻って、いくらでも参照される歴史はあるはずだけど。だけど、その中の一断面だけを切り取って、「ロシア語を喋るところは僕んち」みたいなことになってるわけじゃないですか。そういうのって、どうなんだろうなと思うわけです。そうじゃなくて、この『土景』がこだわっているような、その土地に根差した何か、文化の在り方って、やっぱり世界中みんなで考えていかなきゃいけないんじゃないかと思う。多分ウクライナというのは、ウクライナ自身の文化を主張できなければ飲み込まれるんですよ。要するに、自分のアイデンティティーを言えなければ、「お前…

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