丹羽隆志さん(TAKASHI NIWA ARCHITECTS代表)は、日本を離れ、ベトナムを拠点として設計活動をおこなっている国際的な建築家である。今回のレビューでは、丹羽さんに自身の設計活動について語ってもらい、そこからベトナムの社会状況や環境、その土地に宿る魅力と問題、それらに相対する自身の考えをお聞きした。そこから見えてくるのは、まさに現在進行形で変貌の局面にあるベトナムという国の風景と、一人の建築家との闘いの履歴である。
僕がベトナムに来たのは、ちょうど30歳になったときです。それまでは、建築家の岡部憲明さんのオフィスで5年間つとめました。岡部さんはレンゾ・ピアノ・ビルディング・ワークショップのパリオフィスでチーフアーキテクト、そしてジャパンオフィスの代表として関西国際空港などを担当。レンゾと長く協働された後、日本で独立されていました。建築以外にも橋やインダストリアルデザインなどもされる方で、みなさんの身近なところだと小田急ロマンスカーの白い車両(VSE)、青い車両(MSE)、赤い車両(GSE)などは、全て岡部さんがデザインされたものです。僕はそこで得た建築にとどまらない貴重な経験をもとに30代はたくさんのプロジェクトに取り組みたいと考えました。そこで次の舞台として一番可能性を感じたのがベトナムで「よし、たくさんプロジェクトをやるぞ!」とやって来ました。
まずはVTN(VTN Architects:以下VTN)で取り組んだ最初の8年間のプロジェクトを紹介します。
Farming Kindergarten 設計:VTN Architects (Vo Trong Nghia+丹羽隆志+岩元真明) (c)Gremsy
立体的に連なる屋根 (c)大木宏之
こちらがFarming Kindergartenという台湾系の靴工場の付属の幼稚園で、500人の子供たちが学んでいます。隣にある靴工場は工員さんの約8割が女性です。500人という限られた人数ではありますが、彼女たちの子どもに親のそばでより良いサスティナブル教育を行いたいというクライアントの意向で始まったプロジェクトです。建物内にゾーニングを緩やかにつくりながら敷地の大きさを最大限に活かすために、一筆書きでぐるっと昇って同じ場所に降りてこられる屋根をつくり、その中に年齢ごとの3つの中庭をつくりました 。
菜園を通して農業の大切さを学ぶ (c)Quang Tr…
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