西倉美祝さん(MACAP代表)は、現在京都を拠点に、全国で設計・リサーチ活動を繰り広げている若手建築家である。
学生時代から数々のコンペや設計展で受賞を重ね、その時からの継続的な思考の蓄積は”オルタナティブ・パブリックネス”という概念に結実し、彼のマニフェストの一つとして現在も掲げられている。また、それと平行しながら、SNSや数々の雑誌媒体で批評活動を展開し、『新建築』や『商店建築』など建築関連の大手メディアにおいても執筆の連載を受け持つなど、そのリサーチ・批評活動においても、突出した存在感を放っている。
今回のレビューおよびインタビューでは、彼の掲げる”オルタナティブ・パブリックネス”という概念と、それに紐づく幾つかのキーワードを基に、その思考と実践の詳細について語ってもらった。
また、そうした物事の捉え方の基盤となる彼自身の生い立ちや、現在の暮らしの中での発見など、生活史や背景についても深く聞くことができた。
「個々の欠落している、個性的な、特定の作法や振る舞いのある空間が、層のように連なることで、そこを自由に移動できる。選択性=移動する自由があるということが重要と思います。」
彼の思考は、”私”(private)と”公”(public)を二分することなく、より有機的に結びつける。
――建築視点の公共性論を自らの視点で再考しようと試みる、若手建築家の熱き情熱を垣間見る。
ここからは、MAの方の、設計活動の話をさせて頂きます。
“オルタナティブ・パブリックネス”という概念は、商業空間じゃなくてもいろいろと応用が利く考え方なので、さっそくですが、たとえば、このような展示会の設営や会場構成でも、同じような考え方で試みています。
東京大学・生産技術研究所公開の展示『彫刻の布』(2018)
これは東京大学の生産技術研究所公開というイベントで、川添(※2:川添善行)研究室の展示会場の構成をやったものです。
研究室の前に細長い廊下がありまして、ここで展示をすることになったのですが、廊下でしか展示できない上に予算が10万円しか出ないということでした。そこで、西日暮里の布屋街で布を買ってきて、こんな感じで、伸ばして、伸ばして、伸ばしました。その上にばーっと展示物が並んでいます。布をびよんと伸ばして展示台にすることで、脚がない30メートル支えなしの展示台ができるんじゃないかと。
これは布なんですけど、布らしい形にもなっているし、でも少しぐにゃんと曲がっている形が彫刻的にも見える。つくっているとき、そういうふうに両方に見える展示台ができたら面白いなと考えました。布を伸ばすと普通は真ん中の部分がきゅっと細くなってしまうのですが――そうならないようにスペーサーを入れて、虫ピンで留めて、この幅を維持することで、布らしくない形がびゅうっと伸びているふうなのができるなと。
机と本による布端部の固定方法
さらに、この布を固定する方法は、扉に挟んで――僕はこれをSD構法(スチールドア構法)と呼んでるんですけど(笑)――SDに挟んで、引っ張って、反対側はクランプできゅっと捻じって、川添研究室の本を重しに使ってテーブルに括り付けています。こうすることで、生研公開というオープンキャンパスで、川添研究室が何をやっているのかを伝える展示として、「この展示は川添研究室の知性によって支えられています…
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