西倉美祝さん(MACAP代表)は、現在京都を拠点に、全国で設計・リサーチ活動を繰り広げている若手建築家である。
学生時代から数々のコンペや設計展で受賞を重ね、その時からの継続的な思考の蓄積は”オルタナティブ・パブリックネス”という概念に結実し、彼のマニフェストの一つとして現在も掲げられている。また、それと平行しながら、SNSや数々の雑誌媒体で批評活動を展開し、『新建築』や『商店建築』など建築関連の大手メディアにおいても執筆の連載を受け持つなど、そのリサーチ・批評活動においても、突出した存在感を放っている。
今回のレビューおよびインタビューでは、彼の掲げる”オルタナティブ・パブリックネス”という概念と、それに紐づく幾つかのキーワードを基に、その思考と実践の詳細について語ってもらった。
また、そうした物事の捉え方の基盤となる彼自身の生い立ちや、現在の暮らしの中での発見など、生活史や背景についても深く聞くことができた。
「個々の欠落している、個性的な、特定の作法や振る舞いのある空間が、層のように連なることで、そこを自由に移動できる。選択性=移動する自由があるということが重要と思います。」
彼の思考は、”私”(private)と”公”(public)を二分することなく、より有機的に結びつける。
――建築視点の公共性論を自らの視点で再考しようと試みる、若手建築家の熱き情熱を垣間見る。
ここからは、さきの“オルタナティブ・パブリックネス”の話を念頭に、僕の活動についてお話しします。
まず、先ほども少し見て頂いた商業空間のEX(エクストリーム)行為調査をお見せします。
この調査は、自分が独立と同時に、川添(※2:川添善行)研究室の博士課程に入った直後に始めたもので、まだ”オルタナティブ・パブリックネス”という言葉や概念を考える前の活動です。しかし、このときから、自分の中では「商業空間や民間の空間というものが何かしら公共的である」ということにリアリティーがあったので、自分の中でそれを確かめるために、とにかく商業空間のリサーチをしてみたいと思ったんですね。そこで実際に何が行われているのかを見てみることで、商業空間の意外な自由さや、公共施設と異なる可能性についての発見を期待し、分析するものでした。
このときは、何に着目したのかというと、商業空間の中の繰り返しから外れて自由なことをしている人がいるのではないかと――たとえば、物を買うという行為は、棚にある物を取ってレジに持っていくというように、決まった動線に従って、決まった動きをするという型があると思いますが、たまに、それから外れて自由なことしてる人というのがいますよね。
その変なことをしている人を見つけることで、もしかしたら商業空間が思いのほか自由であるということの証明になるのではないか、そして商業空間の今後の伸びしろを考えるきっかけになるのではないかと思い、川添研究室の学生の皆さんに協力してもらいながら、「予期していない面白いことをやっている人を、商業空間の中で見つけてこよう」というワークショップをしました。
代官山Tサイトにおける行為調査
たとえば、これは代官山Tサイトです。
このように階段があって、動線があって、休憩スペースがあってというところで、どうしてもいろんなものに阻まれてデッドスペースになってしまう場所を、観光…
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