西倉美祝さん(MACAP代表)は、現在京都を拠点に、全国で設計・リサーチ活動を繰り広げている若手建築家である。
学生時代から数々のコンペや設計展で受賞を重ね、その時からの継続的な思考の蓄積は”オルタナティブ・パブリックネス”という概念に結実し、彼のマニフェストの一つとして現在も掲げられている。また、それと平行しながら、SNSや数々の雑誌媒体で批評活動を展開し、『新建築』や『商店建築』など建築関連の大手メディアにおいても執筆の連載を受け持つなど、そのリサーチ・批評活動においても、突出した存在感を放っている。
今回のレビューおよびインタビューでは、彼の掲げる”オルタナティブ・パブリックネス”という概念と、それに紐づく幾つかのキーワードを基に、その思考と実践の詳細について語ってもらった。
また、そうした物事の捉え方の基盤となる彼自身の生い立ちや、現在の暮らしの中での発見など、生活史や背景についても深く聞くことができた。
「個々の欠落している、個性的な、特定の作法や振る舞いのある空間が、層のように連なることで、そこを自由に移動できる。選択性=移動する自由があるということが重要と思います。」
彼の思考は、”私”(private)と”公”(public)を二分することなく、より有機的に結びつける。
――建築視点の公共性論を自らの視点で再考しようと試みる、若手建築家の熱き情熱を垣間見る。
崎谷 そろそろ会場から質問が来ているので、お願いします。
会場 ありがとうございました。私は西倉さんのことを大阪のアーキフォーラムで1回見させて頂いて、あと『U35』の展示も見させて頂いたのですが、公共性というものを商業建築から考えるというところで、上からの権力とは別に、民間で行なっていることの可能性を感じました。
「Under 35 Architects Exhibition(通称:U35)2022」の西倉さんの展示
会場 一方で、そこで展示されていたリサーチとかを見ていくと、やっぱり選択されてるような気もしてしまっていて、そうすると、そこでつくられる公共性って何だろうなということが、ちょっと分からなくなったというのが正直なところで。たとえば、リサーチの中で、エクストリーム行為を取り上げられていましたが、建築を造ることによって、そういった行為を他の人もできるようにするということが西倉さんの目標なのでしょうか? それとも、もっと広い範囲で公共性というものをつくっていきたいのか、そのあたりのことをちょっと聞けたら嬉しいです。
西倉 ありがとうございます。答えとしては、もっと広い範囲でつくっていくことというのが目標です。オルタナティブ・パブリックネスは商業空間に限った話ではないですし、建築物1つの設計だけで満たされるような公共性論でもないです。ただ、エクストリーム行為一つ一つも建築で可能な公共性の幅を広げていると思います。調査した商業空間は、こういう言い方するとあれですけど、それほど公共的じゃないんですよ。そんな中、人は意外にもそういう場所で自由に振る舞うことができるという、人への信頼と建築の可能性を発見するということにはなりました。
エクストリーム行為の分析画像(ウェディング・チャペルの事例)
※ vol.2『商業空間にあり得べき公共性』参照
西倉 あとは、それを1つの豊かな空間をつくるということ以上に、不完全だけど個性的な空間を多数、一つの建築物や一つの空間の中、都市の中などで、いっぱい重ねていけば、端的に潰しが利くってところですねと考えています。カフェでできることもあれば、スポーツジムでできることもあるし、学校でできることもあれば、職場でできることもあるし、家でできることもあるしというような。そういうように、いっぱいつくっていきながら、それぞれが閉鎖的にならないで、利用者も…
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