西倉美祝さん(MACAP代表)は、現在京都を拠点に、全国で設計・リサーチ活動を繰り広げている若手建築家である。
学生時代から数々のコンペや設計展で受賞を重ね、その時からの継続的な思考の蓄積は”オルタナティブ・パブリックネス”という概念に結実し、彼のマニフェストの一つとして現在も掲げられている。また、それと平行しながら、SNSや数々の雑誌媒体で批評活動を展開し、『新建築』や『商店建築』など建築関連の大手メディアにおいても執筆の連載を受け持つなど、そのリサーチ・批評活動においても、突出した存在感を放っている。
今回のレビューおよびインタビューでは、彼の掲げる”オルタナティブ・パブリックネス”という概念と、それに紐づく幾つかのキーワードを基に、その思考と実践の詳細について語ってもらった。
また、そうした物事の捉え方の基盤となる彼自身の生い立ちや、現在の暮らしの中での発見など、生活史や背景についても深く聞くことができた。
「個々の欠落している、個性的な、特定の作法や振る舞いのある空間が、層のように連なることで、そこを自由に移動できる。選択性=移動する自由があるということが重要と思います。」
彼の思考は、”私”(private)と”公”(public)を二分することなく、より有機的に結びつける。
――建築視点の公共性論を自らの視点で再考しようと試みる、若手建築家の熱き情熱を垣間見る。
崎谷 ありがとうございます。面白いね。西倉さんの話は、実はどこかで聞いたことがあるんですよ。『よなよなzoom』(※)かな? ちょっと出てたよね?
※ 『よなよなzoom』: 廣岡周平(pershimonhills architects)・工藤浩平(工藤浩平建築設計事務所)・佐藤布武(名城大学) の3名によって企画・運営される建築・都市・まちづくり・文化についてのトーク配信。
西倉 出ましたね。
崎谷 そうだ。そのときに、幼少期を中途半端な所で育ったんだという話と、コンビニの周りや立体駐車場とかで遊んでたっていう話もしてなかった?
西倉 そうですね。駐車場で遊んでて、石とか投げてて。で、石を投げたら車のガラス割っちゃったみたいな…(笑)。
崎谷 割れるよね。駐車場で石を投げたら大体そうなるよね(笑)。
西倉 ひゅんって行ってばりんって割れて…。懐かしい。
崎谷 でも、そういう子どもの頃の体験は覚えてるよね。俺もアパートだったんで分かる。うちの家は、親が大学の先生で、大学の宿舎のアパートだったんだけど、その階段室が遊び場だったんだよね。で、上からやっぱり、なんか落としてたよね(笑)。
西倉 (笑)。
崎谷 ところで、今日の話の全体を少し俯瞰したところから聞いていきたくて。というのも、僕は土木をやってて、土木っていうのは一般的には“公共”のど真ん中にいるというか、そこから出発するものなんですけど、最近の興味としては「ひとりのための土木」とか「特定の個人の人にとっての土木」について考えていたりするんですよ。
西倉 はい、なるほど。
崎谷 西倉さんは建築という分野から、“公共性”の概念に対して掘り下げていますよね。どうやって新たに“公共性”を特徴付けていくかというか。土木からすれば、公共の物は「税金で造られるもの」で、「誰もがアプローチできて当たり前のもの」というところから入って、いかに“ひと…
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