世界中を旅する歌手、松田美緒さん。これまでに様々な文化圏の民族と交流し、また現地の音楽家たちと楽曲を製作してきた。その歴史的、民族的、考古的とも言える感性と創造性はどこから生まれてきたのか。そして、どこへ向かっているのか。彼女の見てきた風景を通して、その源泉と未来について語り合う。
2021年12月1日の昼下がり。東京都文京区のイタリア料理店にて。
崎谷 松田さんみたいに、それくらいスケールして、物事を見れると良いよね。
松田 私もたまたまというかね。なかなか見れないですよね。
崎谷 難しいねえ。繋がってるようで、ちゃんとは繋がらないし。
松田 私も自分が行ってきたところじゃないと、基本的になかなか難しいなあ。
崎谷 でも、やっぱりその辺を繋げていくのも、人の役割っていうか。人が生きて、土地に関わる意味のような気もするよね。なかなか書物とかじゃ伝わらないようなところを繋ぐのは、やっぱりそういう人じゃないとね。だから、松田さんみたいに歌いたい衝動とか大事だよね。さっきの四国のところだって、単純に保存するために移築してきたってだけじゃなくて、意味をきちんと作っていくというかね。
松田 サトウキビのしめ小屋の響きが気になりますよ。その中に、歌が染みついていると思うんだよ、その中で唄われていた歌がさ。
崎谷 そうだよね。歌はね、染みついている。なんか、宇宙的というか、超ひも理論みたいな話なんだと思っててさ。何言ってんだっていう顔をする人がいるかもだけど(笑)。
松田 ははあ。でもね、リスボンの路地裏に行って、ファドを唄ってみたら絶対分かりますよ。だって、石畳に染みついているもの(笑)。石壁にも、何世紀に渡って歌がさ。音楽的にはファドって比較的新しいんだけど、でもファド以前の歌とかがあって、染みついているんですよ。だから、迷路みたいな路地を歌がぎゅーっと、いくんですよ。その間で、どんどん溶けていくのが分かるんです。だから、あのメロディーとかもね。
崎谷 迷路みたいな感じ?(笑)
松田 そう(笑)。
ファドの染み込むリスボンの路地裏
崎谷 伊東豊雄さんの台湾の台中オペラハウスとかもクネクネしてますけど、あれも確かポルトガルの路地で歌を聴いた体験を、実際にホールでも作りたいっていう話があったらしいですよ。
松田 そうなの!?ええー、コンサートしたい。
崎…
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