世界中を旅する歌手、松田美緒さん。これまでに様々な文化圏の民族と交流し、また現地の音楽家たちと楽曲を製作してきた。その歴史的、民族的、考古的とも言える感性と創造性はどこから生まれてきたのか。そして、どこへ向かっているのか。彼女の見てきた風景を通して、その源泉と未来について語り合う。
2021年12月1日の昼下がり。東京都文京区のイタリア料理店にて。
松田さん -仏領ギアナにて-
松田 とりとめもない話ですけど、大丈夫ですか?
崎谷 十分ですよ(笑)。
松田 本当?(笑)
崎谷 なんかですね、けっきょく風景もそうなんだけど、出来上がったものしか見ないじゃないですか。どうやってそれが出来上がったかなんて、あんまり考えずに受け取ってしまうというか。構造をあまり一所懸命に考えないし。たとえば、料理を見て、何の素材から出来てるかとかは確かに考えるかもしれないけど、さらにそこに人の想いとかがあると思うんだよ。それをインタビューして残していきたいなって思うわけで。
松田 面白いね、インタビューって(笑)。
崎谷 やりたい?(笑)
松田 やりたい(笑)。
崎谷 なんで白子とカラスミを重ねたんですか?とか(笑)。
松田 最高なんだけど、どうして組み合わせたんですか?どうしたんですか?ってね(笑)。
崎谷 本人も気づいてなかったりする領域もあるかもしれない。
松田 でも、そういえば、わたし、歌を組み合わせるのが好きで。あるときにギリシャで録った音源がね、マケドニアとブラジルの歌を一緒に歌っているんですよ。何故かっていうと、それを歌っていたヤドランカさんっていうボスニア出身の女性歌手がいて、大好きな彼女へのオマージュで。彼女はそういう人なんですよ。日本の浮世絵を描いてて、日本に浮世絵を勉強しに来たんだけど、戦争で帰れなくなって、ずっと日本にいたんだよね。だから、すごい歌なんだよね。
崎谷 戦前の人ですか?
松田 いえ。でも、ユーゴスラビア紛争の前から活動されてた人で、サラエボオリンピックでも歌った国民的歌手です。それがあったから、私もボスニアに行ったんですよ。彼女の風景が見たくて。2002年に、リスボンからギリシャまで10ヶ国を電車とバスで旅して、ボスニアに行って、サラエボに行って。
崎谷 彼女の見た風景を見て、どう思ったんですか?
松田 すごい豊かだと思ったの。セ…
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