世界中を旅する歌手、松田美緒さん。これまでに様々な文化圏の民族と交流し、また現地の音楽家たちと楽曲を製作してきた。その歴史的、民族的、考古的とも言える感性と創造性はどこから生まれてきたのか。そして、どこへ向かっているのか。彼女の見てきた風景を通して、その源泉と未来について語り合う。
2021年12月1日の昼下がり。東京都文京区のイタリア料理店にて。
崎谷 たとえばいつか死ぬじゃないですか。物質が残るわけでしょう。それはどういう扱いにしようと思っている?
松田 地中海のあたり撒いて欲しい。
崎谷 散骨っていうこと?
松田 そう。なんなら別に何もしなくても良い。
崎谷 そのまま?海にぼちゃんって?(笑)
松田 うん、ぼちゃん(笑)。あ、でも、それは困るかもだけど(笑)。でも、別にどうでも良い、死んだら。
崎谷 地中海が良いんだ?
松田 大西洋でも良いけど、ちょっと荒涼としてるからなぁ(笑)。
サントリーニ火山島と地中海
崎谷 そのあたりの話って形式上はいろいろありますけど、僕たちは普段あんまり考えないよなって思うんです。生きてるうちにも、土地とか家とか住民票とかマイナンバーとか、そういう話がいろいろあるから。でも、最後は空っぽになって、その後物質はどこに行きたいんだろうと思うんですよ。
松田 わかる。けっきょく、みんな共有してる世界の観念があって、その中で踊り踊ってるだけだよね、きっと(笑)。でも、ふと「何やってるんだろう?」って思うときがあって、電車とか乗って街を見てるときにね、雨風を防げるから有難いんだけど、こういうものにずっと自分を閉じ込めながら人間は暮らしているんだと思うと、なんか全部おかしい話っていうか、すべてが茶番劇のように思えてしまうときがあって。
崎谷 建築は茶番劇かもしれないですね。
松田 でも、けっきょく茶番劇をいかに楽しむかですよね、人生は。そこにいかに夢を見るかですよね。夢なんだから(笑)。
崎谷 5歳にして完成してましたからね(笑)。それが歌になってたから。
松田 音楽っていうのは解放なので、芸術とか表現ってそうだと思うんですけど、良い音楽をすることによって、人間のプリズンから解放されるっていうか。
コンサートの様子 -ウルグアイにて-
崎谷 この前のアルバム(『LA SELVA』)はコロナ禍の状況でつくったわけで、それは…
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