世界中を旅する歌手、松田美緒さん。これまでに様々な文化圏の民族と交流し、また現地の音楽家たちと楽曲を製作してきた。その歴史的、民族的、考古的とも言える感性と創造性はどこから生まれてきたのか。そして、どこへ向かっているのか。彼女の見てきた風景を通して、その源泉と未来について語り合う。
2021年12月1日の昼下がり。東京都文京区のイタリア料理店にて。
崎谷 下町の定義ってなんですか?
松田 なんだろう。路地とその文化なのかな。
崎谷 スケール感?
松田 そう、スケール感かも。あと、美味しいものがある。
崎谷 食べ物?
松田 人々が共通して守っている美味しい文化があるというか。地元の人が愛しているというか。
崎谷 あんまり外のものが入ってない?
松田 外のためにやってない。
崎谷 ああ、なるほど。その地域の中で回っている感じ?
松田 そうですね。
リスボンの街並み
崎谷 でも、そういうところって現代社会の中で少ないよね。
松田 うーん。そうですよね。そういうところって、ゲットーとも違うし。地元の人が楽しんでいる感じがある。
崎谷 けっきょく下町に行って、そういうところに暮らしたり、そういうところを行き来したりしているんだと思うけど、クリエイションもその中から出てくる?
松田 そういうのもありますね。たとえば、ポルトガルの時にはリスボンの街の中でも一番の下町に住んでいたんですよ。ファドが生まれたところなんですけど。そこは二つの地区が隣合せになっていて、路地と坂道があって。そこを夜な夜ないろんな店で歌い歩いて、最高でしたね。
20代前半、リスボンのカーザ・ド・ファドでの修行時代
崎谷 良いですね
松田 でも、それで、そうしてると、下町の狭い世界もあるんですよ。ファドのね。それが嫌になったときもあったんですけど。まあ、貧しいから良い人とも限らないというかね(笑)。
崎谷 なるほど。そういうところで歌うときは、お店に「歌わせてくれ」ってお願いして行くの?それともお店側からお願いが?
松田 うーん。仕事としてってのもあるけれど、普通にご飯食べさせてくれる感じで(笑)。
崎谷 歌をうたって、ご飯をくれる?
松田 うん、そこでは本当に皆から良くしてもらって。行ったらご飯食べさせてくれた上、歌手へのリスペクトとして「歌って」って言われるんですよ(笑)。わたしもご飯目当てという…
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