世界中を旅する歌手、松田美緒さん。これまでに様々な文化圏の民族と交流し、また現地の音楽家たちと楽曲を製作してきた。その歴史的、民俗的、考古的とも言える感性と創造性はどこから生まれてきたのか。そして、どこへ向かっているのか。彼女の見てきた風景を通して、その源泉と未来について語り合う。
2021年12月1日の昼過ぎ。東京都文京区本郷のトラットリアにて。
崎谷 風景についてはどうですか?
松田 風景とかは、リアス式みたいな地形のところが好きですね。山と海があるところ。あとは、坂道が多いところとかね。逆に、平野は怖いですよ。
崎谷 生まれは秋田でしたっけ?平野が怖いとは?
松田 平野は、それはもう恐怖ですよ。平野を徒歩で行くのとかはね、寂しいですよ。生まれの秋田の土地では、学校まで平らな道を徒歩5kmとかあって。向こうに学校が見えてるのに子供の足では辿り着けないんですよ。だからね、関東平野とか行ってもね、もう嫌(笑)。距離感が分からないし。だから、ブエノスアイレスとかもあんまり好きじゃなくって。けっこう平らな街なんですよね。そういうところに行くと、本当に逃げ場も隠れ場もない感じがして。だから、もう路地とか坂道があるところは好きですよね。
崎谷 それで渋谷とかも?
松田 渋谷ね。宇田川のあたりとか良いですよね。東京も徒歩だと、地形が入り組んでいて、わりと面白いんですよね。
崎谷 渋谷駅の周りは、いまだいぶ変わっていますけどね。宇田川町みたいな雰囲気が残っているところは、もう少なくなってるかもしれません。東京も地下鉄ばっかり使っていると分からなくなります。でも、丸の内線とかが一瞬外に出たりするのとか面白い。
松田 うんうん(笑)。あと、火山のところはね、やっぱり行きますね。エネルギーが強いなって感じます。地中海とかもそうだけど、自然も強いし、人類の歴史もすごい強い。有明海も好きですよ。島原とか竹崎とか、やっぱりそこにも火山があって、カルデラなんです。すごい自然が豊かで、自分は落ち着くし、エネルギーが強いところなんですよね。不思議なことに、火山にはめぐり合わせがあるんですよ。カーボ・ヴェルデも火山の島ですしね。すごく荒涼とした岩山で、それはそれでもちろん嫌なんですけど(笑)、なぜか好きなんです。その石ころとか岩みたいなものが、どこかで自分の心象…
全文を表示するにはログインが必要です。